第15回

『LOVEはじめました』
昨年からのMR.CHILDRENから発せられてきた楽曲はまさにその言葉どおりのものであったのかもしれない。
『優しい歌』という、彼らのキャリアの中でも、一際大きな転機となる曲の中で歌われていた、
「誰かのために小さな火をくべるよな、愛する喜びに満ちあふれた歌」
というのが、その後発表された『youthful days』『君が好き』に大きくリンクしている事は明らかだったと思う。
そんな、まさにミスチル復活のイメージのなかで届けられたアルバム『It's a wonderful world』。
発売されてからもうだいぶ経ちましたが、今回はこれについて書いてみようかと思います。

多くのミスチルファンが、かなりの期待で今回のアルバムを手にしたことでしょう。僕もその1人です。
あの『youthful days』のような切れ味鋭いポップソングが、『君が好き』のような激甘ラブバラッドが、
アルバム全編に覆われているんだろうという予想は少しだけ裏切られ、それ以上に彼らのポップミュージシャン
としてのとてつもない才能を見せ付けられる、近年まれに見る傑作アルバムと言っていいと思います。
この中に僕の好きな歌がいくつあるかって聞かれたら、15曲中の13曲って答えてしまいそうな、
そんな駄曲が一切無いといっていい、すごいアルバムです。しかもほぼ全部が歌もの、ポップソングでしょ。
やっぱりすごいなぁ、そりゃぁ売れるわなぁ。頭の曲M2『蘇生』(なんてイカスタイトルだ)聞いた瞬間、あの
『Replay』や『イノセントワールド』の頃の激烈ポップサウンドの感覚が蘇りました。
「そうな〜んどでも、な〜んどでも〜、僕はうま〜れ変わってゆけ〜る」ってメロすぐ覚えたもん。

歌詞がもう秀逸なんですよ。その内容は一度挫折を味わっているような雰囲気の、でもそんなにへこんでる
わけでもなくて、だからってバカみたいに浮かれてるわけじゃない。本当に平熱+α(小さな自分への期待)
がギュッと詰まっている感じがして、すごく今の僕たちの気持ちにリンクするわけですよ。
その代表的な曲がM4『one two three』ですね、まずこれ僕大好きです。超名曲!!
ちょっと歌詞を抜粋。
「高らかな望みはのっけから持ってない、でもだからといって将来を諦める気もない」
「ぬるま湯の冥利と、分別を知った者特有の、もろく、鈍く、持て余す、ほろ苦い悲しみ」
「僕ならきっと冗談めかしてたりするけれど、ずっとずっと考えているんだ、
 その場しのぎで振り回す両手もやがて上昇気流を生むんだ」
誰もがきっと抱えているだろう思いをこんなにダイレクトに、秀逸に描き出してしまう。
桜井さんは恋愛スーパーマンではなく、そんな男子特有の悩みや葛藤を歌にする作詞家だ。
(まぁそれがスーパーな所なわけですけど・・・)
この男子特有の悩みや葛藤、情けなさ、ちょっとだけカッケェだろって感じと、それに自己満足している
カッコ悪さ、そういうのがすごい共感してしまう部分で、このアルバムにも随所に出てきます。
M5『渇いたkiss』では、前の彼女に今でも未練いっぱいで、新しい男に嫉妬して、ってそんな男子が描かれる。
きっとこれって誰もが感じる想いでしょ。結局最後には幸せを願っているみたいなかっこつけた感じとかも。
「ある日君が眠りにつく時、誰かの胸に抱かれてる時、
 生乾きだった胸のカサブタがはがれ、桃色のケロイドに変わればいい、時々疼きながら」
って締めくくっちゃうわけですね。ケロイドっていうメタファーで、これだけ泣かせるのはミスチルだけでしょ。
そして、M6『youthful days』言わずと知れた名曲、久々にキレのあるポップソングという感じで、
でもやっぱりミスチルっぽくて、中盤〜後半のすさまじい一節が胸をギュッと締め付けるわけで。
「繋いだ手を離さないでよ、腐敗のムードをかわして明日を奪うんだ!」、これはかなりやられました。
そしてたたみ掛けるように、M7『ファスナー』、こんなすごい曲がまたもや登場。
彼女が自分からファスナーを下ろして、それにあっさり幻滅し、それでもやっちゃって、なんて情けない男子が
描かれるわけですが、途中からこのファスナーでウルトラマンのファスナーまで空想して、なんていうか恋人
同士の普遍的なテーマにまで押し上げてしまう、まさに桜井マジックが披露されるんです。すごいね。
M8ではハード&サイケデリック桜井が少し顔を覗かせる『Bird Cage』を経て、ついにM9『LOVEはじめました』へ
とクライマックス方向に突入します。俺これ聞く前はあの『雨のち晴れ』的なちょっとだけほろ苦いポップソング
を想像してましたが、それが大違いで。タイトルのムードをニヒルに一蹴する、現代ブルース的な曲でした。
これがまたすさまじいメッセージ性を持った曲でね。描き出されるのは、またもや現代に生きる僕たちのような
とても曖昧に生きる男子であり、きっとそれは桜井さんで、そして僕たちなんでしょう。
殺人現場に集まる携帯片手にピースサインの中高生を見ながら、「お前らが死刑になりゃぁいいんだ」
と毒づき、その後の中田のインタビューが気になってしまうからそれ見てから考えようなんていう、そんな自分も
含めた時代を「LOVEよく冷えております」なんて皮肉ってしまう。最後には唄歌いである自分にできることは、
愛している人へラブソングを歌うことぐらいだ、と気持ちを前に向ける。そんな感動的な歌です。
後半はこの曲を受けてM11『DRAWING』、M12『君が好き』というすさまじいほどの激甘ラブバラッドを連射、
この辺は十八番といいますか、はっきり言って今日本で1番ラブソングが書ける人は桜井さんかもしれません
って言うぐらいの名曲で、まぎれもなくこのアルバムのピークポイントですね。
そしてエピローグ的に3曲、決意表明的なM13『いつでも微笑みを』、M14『優しい歌』と続き、
お得意の感動ラストソングでタイトル曲でもあるM15『It's a wonderful world』で締めくくる。
『いつでも微笑みを』では、
「いつでも微笑みを、そんな歌が昔あったような、今こそその歌を僕たちが歌うべきじゃないかなぁ」と決意し、
「もし僕がこの世から巣立っていっても、君の中で僕は生きつづけるだろう、
 そう思えば何とか、やってイケそうだよ」と宣言する。(共に少しヨワっちい感じがいいね。)
『優しい歌』では、
「後悔の歌、甘えていた鏡の中の男に今、復讐を誓う」と『深海』『ボレロ』ムードに決着をつけに行く。
まさに紆余曲折で一周まわったミスチルが、二週目に突入した事を宣言する終わり方で幕を閉じるわけです。

これからの彼らは、また迷い苦しみ、何度も立ち上がる様を見せてくれるんだろう。そして彼らの曲は、
共に立ち上がろうとする僕たちのとなりに常に寄り添っていることだろうと思う、僕たちの主題歌になり得る
曲をいっぱい作り続けていくことだろうと思う。たとえそれが消費されていくのだとしても、彼らはその決意
をここに表明したんだから、戦う決意をしたんだから。
そんなことも踏まえて一度このアルバムや、新曲「Any」を聞いてみてくださいよ、いい感じよ、マジで。
これからも名曲が生まれる瞬間がある、その事がすごく嬉しいし、ものすごく楽しみだ。

そして現代を生きる僕たちに最後にこんな感動的なメッセージがあったので、ここに。
「忘れないで、君のことを僕は必要としていて、同じようにそれ以上に想ってる人もいる、
 あなどらないで、僕らにはまだやれることがある、
 手遅れじゃない、まだ間に合うさ、この世界は今日も美しい、そうだ、美しい」
                              M15『It's a wonderful world』より
マジであなどらないで、ミスチルも。
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